• 8月 24, 2026
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【誤解していませんか?】緩和ケアは「最後に行く場所」ではない!がん治療と同時に始める「早期緩和ケア」という新しい常識

「緩和ケア」と聞くと、皆さんはどんなイメージを持ちますか? 「もう治療法がなくなった時に行く場所」「延命をあきらめて最後に行くところ」……そんな風に思っている方が多いかもしれません。

 しかし近年の医学研究では、「がんと診断された早い段階から、通常の治療と並行して緩和ケアを受けること(早期緩和ケア)」が、患者さんやご家族にとって非常に大きなメリットをもたらすことが分かってきました。

 今回は、海外の有名な2つの医学論文(Temel医師らの研究/Bruera医師らの解説)をもとに、「早く始める緩和ケア」がなぜ大切なのか、その驚きの効果と身近に捉えるための考え方について解説します!

衝撃の研究結果:緩和ケアを早く始めたら「生きる期間」が延びた!?

 2010年、米国の権威ある医学誌(NEJM)に発表された研究(Temel氏ら)は、がん医療の常識を大きく覆しました。 進行した肺がん(転移性非小細胞肺がん)の患者さん151人を、以下の2つのグループに分けて調査を行ったのです。

 • A:通常の抗がん剤治療のみを行うグループ
 • B:抗がん剤治療と同時に「早期緩和ケア」を受けるグループ

すると、12週間後に明確な違いが現れました。

 • 心の状態が穏やかに 痛みや吐き気、息苦しさといった身体症状だけでなく、不安や気分の落ち込みといった心の苦痛も早い段階からケアすることで、うつ症状を感じる人の割合が大幅に減少しました(16% 対 38%)。
 • 生活の質(QOL)が向上 心身の負担が和らぐことで、自分らしい生活を送りやすくなりました。
 • 無駄で無理な治療が減少 体調が安定し、不必要な救急受診や過剰な検査・処置を避けられるようになった結果、亡くなる直前の身体的負担が大きい治療を減らすことにつながりました。

実は「長生き」につながる可能性も

 そして最も驚くべきことに、「早期緩和ケアを受けたグループの方が、平均して約2.7か月長く生存した(生存期間の中央値:11.6か月 対 8.9か月)」のです。 つらさを和らげるケアを早く取り入れることが、結果として命を延ばすことにつながりました。

なぜ早期緩和ケアで「長生き」や「QOL向上」ができるの?

 なぜ、早く始めることでこのような良い変化が生まれるのでしょうか? Bruera医師らの解説論文(2012年)では、その理由と仕組みが分かりやすく説明されています。

1. 痛みや吐き気を我慢せず、治療に専念できる

 がんは病気そのものの痛みだけでなく、抗がん剤や放射線治療の副作用(吐き気、強いだるさ、息切れなど)を伴います。 早い段階から専門チーム(緩和ケア医、看護師、心理カウンセラーなど)が関わることで、症状をスピーディーに和らげることができます。体が楽になれば体力が維持され、抗がん剤治療も計画通り続けやすくなります。

2. 「車のシートベルトやエアバッグ」と同じ役割

 論文では、緩和ケアを「車の安全・快適装備」に例えています。

 • 抗がん剤治療など: 「目的地へドライブする(仕事を続ける、旅行に行く)」
 • 緩和ケア: 「シートベルトやエアバッグ、エアコン」を備えておくこと

 「万が一の事故に備えてシートベルトを締める」からといって、「事故を起こすつもりで車に乗る人」はいませんよね。 それと同じで、「治癒や延命を目指す治療(ドライブ)」を全力で続けながらも、「体の苦痛や不安を和らげる(シートベルトやエアコン)」準備を同時におこなっておくのが早期緩和ケアの考え方です。 「諦めるためのもの」ではなく、「快適に治療を続けるための安全装置」なのです。

3. 主治医とチームで患者さんを支える(統合ケアモデル)

 主治医の先生ひとりで「がんの治療」「痛みの管理」「心のケア」「ご家族の相談」をすべてこなすのは非常に大変です。 早期緩和ケアでは、主治医が「がんの治療」に集中し、緩和ケアチームが「生活と心のケア」を担当する「統合ケアモデル(Integrated Care Model)」をとります。専門チームが協力し合って支えることで、漏れのない手厚いサポートが可能になります。

「サポーティブケア(支持療法)」という考え方

 「緩和ケア」という言葉自体のイメージに抵抗がある方も多いかもしれません。 米国のある有名がんセンターでは、外来の名称を「緩和ケア」から「サポーティブケア(支持療法)」に変更したところ、患者さんが相談しやすくなり、紹介される件数が41%も増えたそうです。

 「つらさを支えてもらう(サポート)」という捉え方なら、もっと気軽に相談できそうですよね。名前のイメージだけで遠ざけてしまうのは、非常にもったいないことです。

まとめ:早期緩和ケアは病気と向き合う「最強の味方」

 緩和ケアは決して「最後の手段」でも「治療の諦め」でもありません。 むしろ「治療を元気に続け、自分らしく生きるための強力なサポーター」です。

 もしご自身やご家族ががんと診断されたら、「まだ早いかな?」と思わずに、ぜひ早い段階から主治医に相談してみてください。

 「もっと快適に過ごしながら治療を続けるために、サポートしてくれるチーム(サポーティブケア)を一緒に受けることはできますか?」

 早期からの緩和ケアは、病気と向き合うあなたの大きな助けになります。



当院の役割:

 言葉の持つ印象とは、不思議なものです。
 たとえば「ホスピス」と聞くと身構えてしまう方も、「緩和ケア病棟」という言葉なら少し肩の力が抜けるのではないでしょうか。「麻薬」や「モルヒネ」に抵抗感があっても、「医療用麻薬」「オキシコドン」「フェンタニル」と表現すると受け入れやすくなることもあります。同じように、「緩和ケア」という言葉よりも「(緩和)支持療法」と言い換えたほうが、しっくりくる方もいらっしゃいます。

 私たち緩和ケア医の目標は、時期(早期から終末期まで)を問わず、「今、その瞬間にある苦痛を和らげ、当たり前の日常を取り戻すこと」です。そして、「その人らしく、満足のいく人生を少しでも長く過ごしていただくこと」を目指しています。症状を和らげる医療は、あくまでそのための「手段」に過ぎません。

 抗がん剤などの治療が終了すると、それまで通っていた診療科での診察も終わりを迎えます。しかし、緩和ケア病棟への登録を済ませたものの、実際の入院や利用までの間、サポートしてくれる医師がいない「空白期間」に悩む患者さんを、私たちは数多く見てきました。

 「治療中の方から、治療終了後の経過観察期の方、そして症状緩和を必要とする方まで、地域で支えられる仕組みを作りたい」——そんな思いから、当院では緩和ケア専門外来を開設しております。

 お体や心のお悩み、生活の不安、これからの過ごし方など、少しでも気になることがありましたら、いつでもお気軽に当院へご相談ください。

参考資料:
 • Temel JS, et al. “Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer.” N Engl J Med. 2010;363(8):733-742.
 • Bruera E, et al. “Palliative Care in Advanced Cancer Patients: How and When?” The Oncologist 2012;17:267–273.

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