• 10月 19, 2026
  • 9月 4, 2026

認知症の行動異常(BPSD)とせん妄の違いとは?高齢者の心と体に寄り添うストレスケアと観察のポイント

 認知症介護や高齢の方のお世話をする中で、「急に怒り出したり幻覚が見えたりする」「いつもと違って急に頭が混乱している」といった症状に直面し、戸惑ったことはありませんか?

 高齢者の精神症状や行動の変化には、大きく分けて「BPSD(認知症の行動・心理症状)」と「せん妄」の2つがあります。一見似ているように見えますが、原因や対処法は大きく異なります。

 この記事では、BPSDとせん妄の違いや見分け方、発生する原因やストレスの背景、そして対応のポイントについて一般の方にも分かりやすく解説します。

1. BPSD(認知症の行動・心理症状)とは?

 認知症の症状は、脳の細胞が破壊されることで直接起こる「中核症状(記憶障害や判断力の低下など)」と、それに伴って現れる「BPSD(行動・心理症状)」に分けられます。

BPSDの主な症状

 BPSDは意識がはっきりしている(意識清明)状態で現れるのが特徴です。

  • 心理症状:妄想(物盗られ妄想、嫉妬妄想など)、幻覚(特に幻視)、抑うつ感、不安、焦燥感
  • 行動症状:暴言・攻撃的行動、徘徊、つきまとい、不適切な行為、不眠

2. せん妄とは?

せん妄とは、脳の機能が一時的に低下し、軽度の意識障害(意識混濁)や注意力の障害が引き起こされている状態です。急に頭が混乱し、現実と幻の区別がつかなくなるなどの症状が現れます。

せん妄の種類

  • 過活動型:興奮する、大声を出す、幻覚や妄想が見られる。
  • 低活動型:静かで発語が少ない、ぼーっとしている、日中ウトウトしている。
  • 混合型:興奮状態とぼーっとした状態が短時間で入れ替わる。

 低活動型は「おとなしい」「落ち着いている」と見落とされやすいため、注意が必要です。

3. BPSDとせん妄の違い・見分け方

 2つの症状は非常によく似ていますが、観察するといくつかの明確な違いがあります。

項目BPSD(認知症)せん妄
意識の状態はっきりしている
(意識清明)
低下している
(軽度の意識混濁・注意障害)
発症のスピードゆるやかに進行する急激に発症
(数時間〜数日単位)
症状の変動一定の傾向がある
(進行性)
日内変動が激しい
(時間帯で症状が変わる)
回復の可否根本的な回復は難しい
(進行性)
原因を取り除ければ回復可能
取り除けなければ回復は難しい
(可逆的or不可逆的)

 「昨日まで普通だったのに、今日急におかしくなった」「昼間は落ち着いているのに夜になると急激に混乱する」といった場合は、認知症の進行ではなくせん妄の可能性が高くなります。

4. なぜ起こる?ストレスの原因と発生メカニズム

 高齢者がBPSDやせん妄を引き起こす背景には、身体的な理由だけでなく、心理的・環境的なストレスが大きく関わっています。

(1) 高齢者が抱える「喪失体験」とストレス

 老年期を迎えると、以下のような「喪失体験」による持続的なストレスを受けやすくなります。

  • 配偶者や友人との死別・離別
  • 定年や退職による社会的役割の減少、孤立感
  • 経済的基盤の低下
  • 持病(慢性疾患)による日常生活動作(ADL)の低下

 これらの慢性的なストレスが基盤となり、ちょっとした引き金で症状が表面化します。

(2) BPSDを引き起こす要因

  • 生物学的要因:脳の器質的障害や神経伝達物質の変化。
  • 身体的要因:痛み、体調不良、便秘、喉の渇きなど。
  • 心理・環境的要因:介護者の接し方(叱責されるなど)、急激な環境の変化、孤独感など。

(3) せん妄を引き起こす3つの因子

 せん妄は主に以下の3つの要因が重なって起こります。

  1. 準備因子(もともとの弱さ):高齢であること、認知症があること、脳の障害など。
  2. 直接因子(原因となる身体障害):感染症、脱水、貧血、持病の悪化、手術、特定の薬剤など。
  3. 誘発因子(引き金となるストレス):環境の変化(入院や引っ越し)、夜間の入院、身体拘束、騒音、不安やストレスなど。

 認知症のある方は脳の予備力が低下しているため、引越しや入院などの環境の変化(心因)だけでも簡単にせん妄を発症してしまうことがあります。

5. ご家族・介護者ができる対応のポイント

BPSDへの対応

  • 否定せず受け止める:妄想や誤解があっても叱責せず、ありのままを受け止めます。
  • 背景を探る:急に怒り出したら「どこか痛いのか」「不安なのか」と原因を探します。
  • 生きがいと生活リズムの維持:残されている能力を生かし、規則正しい生活を送れるようサポートします。
  • 介護者の心のケア:介護者自身が余裕を持てるよう、デイサービスやショートステイなどの医療・福祉サービスを積極的に活用しましょう。

せん妄への対応

  • 前駆症状に気づく:発症前(1〜2日前)に「落ち着きがない」「日中の眠気」「夜間不眠」「音や光に敏感になる」といった兆候が現れることがあります。早期発見が重要です。
  • 環境を整える:見慣れた家具や愛着のある物をそばに置く、夜間は暗くなりすぎないよう間接照明をつけるなどして安心感を与えます。
  • 身体の異変を確認・医療機関へ相談:脱水や発熱、飲んでいる薬の影響などが原因のケースが多いため、様子がおかしいと感じたら速やかに医師や看護師に相談してください。

まとめ

 BPSDとせん妄は症状が似ていますが、「意識障害の有無」と「急激な発症・変動」という明確な違いがあります。

 特にせん妄は、急性疾患や環境の急変、身体的ストレスが原因で起こり、適切なケアや医療的対応を行うことで元に戻る症状です。急な状態の変化に驚かず、まずは本人を取り巻く環境や体の状態を注意深く観察し、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。

引用文献

  1. 菅原峰子 (2010). 高齢者のせん妄発症要因と予防的かかわり 発症後のケア. 第3回 上越高齢者ケア勉強会 基調講演資料.
  2. 高橋三郎 (2010). 認知症の行動異常とせん妄. 老年期痴呆研究会誌, 15, 37-41.
PHCおぎくぼ在宅診療所 03-6913-6857 ホームページ