• 8月 27, 2026
  • 9月 3, 2026

【完全保存版】もしものための「人生会議(ACP)」と、知っておきたい「AD」「DNAR」をやさしく解説!

 突然ですが、みなさんは「もしものとき、どんな医療やケアを受けたいか」を家族や大切な人と話したことはありますか?

 「まだ元気だから関係ないよ」「縁起でもない!」と思う方も多いかもしれません。でも、人生何が起こるかわかりませんよね。

 今回は、最近医療や介護の現場でとても大切にされている「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」、そして一緒にセットで語られることが多い「AD」「DNAR」という言葉について、専門用語を使わずにわかりやすく1冊の本のようにまとめました。

 これからの人生をあなたらしく、そして大切な家族の心を守るためのヒントとして、ぜひ最後までお読みください。

1. そもそも「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」ってなに?

 アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:略してACP)を一言でいうと、「将来の医療やケアについて、前もって(Advance)みんなで話し合い、計画する(Care Planning)」ことです。

 厚生労働省は、この取り組みをもっと身近に、親しみを持ってもらえるように「人生会議」という愛称をつけています。

「そんな会議、まだ先の話でしょ?」と思われるかもしれませんが、実は決して他人事ではありません。大病を患ったときや命の危機が迫ったとき、なんと約7割の人が「自分で意思決定ができなくなる(自分の意思を自分の口で伝えられなくなってしまう)」と言われているからです。

人生会議(ACP)とは:

 あなたが大切にしたいことや、「もしものとき」に望む医療・ケアについて、あなた自身が考え、家族や信頼できる人、医療・介護チームと何度も話し合っておくプロセスのことをいいます。

 「ACP」と「人生会議」は基本的には同じ概念(意味合い)を指す言葉ですが、実際の現場では以下のように使い分けられることが多くあります。

 • ACP: 主に医療現場において、進行性の病気を持たれた方が「将来どのように治療計画を立て、過ごしていくか」を話し合う場面で使われます。
 • 人生会議: 認知症や老衰なども含め、「将来どのような生活を送りたいか、万が一の際にどこまで医療を選択するか」を、普段から大切な人と話し合っておく取り組みとして使われます。

なぜ「人生会議」が必要なの?

 「そのときになったら、家族に決めてもらえばいいよ」と考える方も多いでしょう。しかし、実はこれが残された家族にとってものすごい心の負担やトラウマになってしまうことがあります。

 • 「本当にあの延命治療を拒否する決断でよかったのだろうか…」
 • 「あの人は、本当はどうしたかったんだろう…」


 本人の意思がわからないまま重大な選択を迫られた家族は、その後に大きな葛藤や後悔を抱えがちです。
事前にあなたの気持ちをシェアしておくことは、あなた自身の希望を叶えるためだけでなく、後に残される大好きな家族の心を守るためでもあるのです。

2. 話し合ったらカタチにしよう!「AD(事前指示書)」とは?

 人生会議(ACP)という「話し合いのプロセス」を重ねたら、それを今度は目に見えるカタチにしておくことが大切です。その意思を書き残した書類のことを「AD」と呼びます。

 ADは英語の Advance Directives の頭文字を取った言葉で、日本語では「事前指示書(じぜんしじしょ)」と訳されます。よく耳にする「リビング・ウィル(尊厳死の宣言書)」も、このADの一種にあたります。

AD(事前指示書)のイメージ:

 将来、自分の意思を伝えられなくなったときに備えて、あらかじめ自分の希望を書き残した書類。未来の家族やドクターに宛てた「医療に関するお願い事のバトン」です。

AD(事前指示書)にはどんなことを書くの?


 一般的には、以下のような内容を具体的に書き残します。

 • どんな医療を受けたいか(あるいは拒否したいか)
「回復の見込みがない状態になったときは、胃ろう(お腹に穴を開けて栄養を送る処置)や人工呼吸器などの延命治療は希望しない」など。
 • どこで最期を迎えたいか
「できる限り住み慣れた自宅で過ごしたい」「病院やホスピスで専門的な医療ケアを受けたい」など。
 • 自分の代わりに判断してほしい人
「もしものときは、長女に最終判断を委ねます」といった、信頼できるキーパーソン(代理意思決定者)の指定。

3. なぜ確認される?「DNAR(心肺蘇生を行わない選択)」の現実


 AD(事前指示書)や人生会議の中で、特によく選ばれる具体的な医療の選択肢に「DNAR(ディー・エヌ・エー・アール)」があります。

 これは英語の Do Not Attempt Resuscitation の略で、日本語に訳すと「心肺蘇生(そせい)を試みないでください」という意味になります。具体的には、病気などが原因で「心臓や呼吸が止まったとき」に、胸骨圧迫(心臓マッサージ)や人工呼吸器の装着、電気ショックといった「心肺蘇生法(CPR)」を行わないという医療上の合意のことです。

 医療現場でこの確認を求められる機会が増えていますが、一体なぜでしょうか?そこには、終末期医療の現実と、患者様・ご家族を守るための大切な理由があります。

終末期における心肺蘇生の現実

 「命を救うための心肺蘇生なら、絶対にやった方がいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、医療ドラマのように「心臓マッサージをして劇的に元の生活に戻る」というのは、元のお身体が比較的元気な場合に限られます。

 がんの末期や老衰など、回復が見込めない終末期の患者様に対して心肺蘇生を行った場合、社会復帰できるまで回復する確率は1%未満と報告されています。特にがん終末期の場合、蘇生後24時間が経過した時点での生存率は0%に近いというのが厳しい現実です。

 さらに、強い力で胸を押し続ける心呼吸蘇生は、お身体に非常に大きな負担や痛みを伴う医療行為でもあります。
 • 肋骨(あばら骨)が何本も折れてしまう
 • 折れた骨で内臓を傷つけてしまう
 • 一時的に心拍が戻っても、意識が戻らないままICUでチューブに繋がれ続けてしまう
 つまり、「無理に命の『時間』を延ばすことで、かえって本人の苦しむ時間を長引かせてしまう」可能性があるのです。

医師がDNARの確認を求める「3つの理由」

 こうした現実を踏まえ、病院では主に次の3つの理由からDNARの意向確認を行っています。

 1. 過剰な医療による苦痛を避け、穏やかな最期を迎えていただくため
 回復が見込めない段階での心肺蘇生は、「救命」ではなく「苦痛の引き延ばし」になってしまうことがあります。人生の最期を苦しみではなく、穏やかで自然な形で迎えていただくことを目指します。

 2. ご本人の「自分らしい生き方(価値観)」を尊重するため
 「最期までできる限りの処置をしてほしい」と思う方もいれば、「最期は何もつけず静かに旅立ちたい」と思う方もいます。どちらが良い悪いではなく、医療陣がご本人の希望に沿った選択をするために事前にお気持ちを伺います。

 3. ご家族の心理的負担(罪悪感や後悔)を軽減するため
容態が急変した緊迫した現場で、突然「心臓マッサージをしますか?」と迫られると、ご家族は「自分が命の選択をしてしまった」と強い罪悪感を抱えてしまうことがあります。事前に方針を話し合っておくことで、ご家族が一人で重い決断を背負わずに済むようにします。

よくある誤解:「治療をすべて諦める」わけではありません!

 ここが最も大切なポイントですが、DNARは「すべての医療やケアをストップして放置する」という意味では絶対にありません。

 あくまで「心臓が止まった『その瞬間』に、お身体へ大きな負担がかかる処置をしない」という約束事です。

【DNAR(蘇生を行わない選択)をしていても行われること】

 • 痛みや息苦しさ、不安を和らげる治療(緩和ケア)
 • 肺炎などにかかった際の抗生剤の投与や症状緩和
 • 点滴などによる水分や栄養の補給
 • 体を清潔に保つなど、普段通りの丁寧な看護や生活ケア

 心臓が止まるその直前まで、患者様が苦しまないための治療や、尊厳を守るためのケアはそれまで通り全力で行われます。医療チームが患者様を見捨てることは絶対にありませんので、どうぞご安心ください。

4. すっきり整理!「ACP」「AD」「DNAR」のつながり

 ここまで3つのアルファベットが出てきたので、頭の中がごちゃごちゃになってしまった方もいるかもしれません。ここで一度、表を使ってスッキリ整理してみましょう!これらはすべて、1つのストーリーで繋がっています。


 つまり、「ACP(人生会議)」という話し合いを重ねた結果を、文字にして残したものが「AD(事前指示書)」であり、その中身(ADの項目)に「もしものときはDNAR(心肺蘇生なし)を希望します」という具体的な約束が含まれている、という関係性になります。


◇「DNAR(蘇生を行わない指示)」の誤解

 「万が一のとき、心臓マッサージなどの延命治療は希望しません」 そう医師に伝える書面を「DNAR指示書」と呼びます。
 この言葉を聞くと、「これを出したら、もう病院は何もしてくれなくなるのでは…?」と不安に思う方もいるかもしれません。
 でも、安心してください。それは大きな誤解です。

 「DNAR=治療を諦める」では決してありません。

 DNARが意味するのは、あくまで「回復の見込みがない中で心臓が止まってしまったときに、無理な蘇生処置(胸骨圧迫や電気ショックなど)は行わない」ということだけです。
 ですから、例えば次のような場合は、これまで通り積極的に治療を行います。
 • お薬や点滴で治る可能性がある病気(肺炎や脱水など)になったとき
 • 一時的な体調不良で、適切な手当てをすれば回復が見込めるとき

 「まだ回復して元気に過ごせるチャンスがある」なら、お医者さんも看護師さんも全力で治療をサポートしてくれます。「もう何もしなくていい」という意味では絶対にないのです。

 最近の医療では、ただ命を延ばすことだけではなく、「患者さんが苦しまず、その人らしく穏やかに過ごせること」がとても大切にされています。

 DNARは、本人やご家族が「最期は痛い思いをせず、静かに逝かせてほしい」と願う選択です。だからこそ、その時が来るまでは、痛みを和らげたり、体調を整えたりするケアが丁寧に行われます。

 大切な人がDNARを選択したとしても、医療チームの手が離れることはありません。最期まで「その人らしい時間」を一緒に守っていくための約束事なのだと、知っていただけたら嬉しいです。

5. 人生会議(ACP)を始めるための4つのステップ

 人生会議は、1回話し合って終わりではありません。人間の気持ちは、年齢や体調、置かれた状況によって変わるのが当たり前だからです。「何度も繰り返し話し合い、アップデートしていくこと」が最大のポイントです。

 具体的には、以下の4つのステップを意識してみましょう。


 • Step 1:自分の価値観を考える
 「これだけは嫌だ」「最期まで自分らしくいたい」「家族の負担になりたくない」など、人生で大切にしたいことをざっくりと考えてみます。
 • Step 2:信頼できる人を決める
 自分が病気などで意思表示できなくなったとき、自分の代わりに医師へ意見を言ってくれる人(家族や信頼できる友人など)を選びます。
 • Step 3:実際に話し合う
 Step 1や2で考えたあなたの「想い」を、家族や主治医、ケアマネジャーなどに伝えて共有します。
 • Step 4:周りに共有し、残しておく(ADの作成)
 話し合って決まった内容をノートや書類(AD)にメモし、体調の変化などに合わせて定期的に見直します。

 始めるきっかけは難しく考えなくてOK!

 とはいえ、「ねえ、私が死ぬときはさ…」と突然切り出すのはハードルが高いですよね。そんなときは、テレビのニュースやドラマ、映画をキッカケにするのがおすすめです。
 • 「このドラマの主人公、延命治療断ってたけど、お母さんならどうする?」
 • 「芸能人の〇〇さんの終活のニュース見たんだけどさ、うちも考えておかない?」
こんな風に、他人の話を借りると、お互いに重くなりすぎず自然に話し始めることができます。

まとめ:人生会議は「今をより良く生きるため」の会議

 アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)は、決して縁起の悪い「死に支度」ではありません。また、その時に決めたことが絶対の最終決定ではなく、いつでも気が変わっていい自由なものです。

 むしろ、「これから先も、自分らしく、どう生き切るか」を考える、とても前向きで温かい話し合いです。
今度の週末や、家族が集まるタイミングで、まずは「お茶でも飲みながら、ちょっと真面目な話なんだけ

参考・引用文献

·  厚生労働省:「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)

·  厚生労働省:平成29年度「人生の最終段階における医療に関する意識調査」報告書

·  厚生労働省:「人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)」普及啓発Webサイト

·  日本救急医学会 / 日本循環器学会 / 日本集中治療医学会:「急性期診療におけるDNAR(Do Not Attempt Resuscitation)指示に関する勧告」

  • O’Brien E, et al. (1997): Cardiopulmonary resuscitation in patients with terminal cancer.
  • 日本緩和医療学会:「がん患者の苦痛な症状に対して行う緩和的鎮静に関するガイドライン」

Detering KM, et al. (2010): The impact of advance care planning on end-of-life care in elderly patients: randomised controlled trial. (BMJ 2010)

PHCおぎくぼ在宅診療所 03-6913-6857 ホームページ