• 6月 11, 2026

訪問診療を考える〜がんばるご家族の「目に見えない不安」に寄り添うために〜

通院が難しくなり、医師から「訪問診療」を勧められても、最初は具体的なイメージが湧かないままスタートされる方は大勢いらっしゃいます。

「これからどうなるのだろう?」 そんな戸惑いの中で、大切なご家族とどう向き合っていけばいいのか、戸惑うのも無理はありません。

訪問診療を導入される理由は、大きく分けると次の2つのパターンが多いと感じます。

1. 通院そのものが難しくなったケース ご本人の体力が低下したり、認知症などで一人での通院が難しくなったりした。あるいは、ご家族の付き添いの負担が大きくなってきた。
2. 在宅での看取りを希望されるケース ご病気は重い状態だけれど、「大好きな我が家で、大切な家族を看てあげたい」という強い想いがある。

どちらのケースでも、在宅医療が始まると「家族の負担をどうすれば軽減できるだろう?」という悩みに直面します。

そこでまずは、「病気との向き合い方」について、少しお話しさせてください。

■患者さんより、ご家族のほうが「心」に大きな負担を抱えている

以前、私が市立芦屋病院の緩和ケア病棟を立ち上げた際、患者さんとご家族を対象に「HADS(不安と抑うつ)テスト」を行い、その心の変化について検討したことがあります。

その結果、非常に印象的だったデータがあります。 実は、患者様ご本人よりも、支えるご家族のほうが、心に強い負担(抑うつ感)を抱えられているという結果が出たのです。

ご本人は、自分自身の体を通して「今、自分がどういう状態か」をある程度実感することができます。

しかし、そばで見守るご家族にとっては、相手の本当のつらさを完全に推し量ることはできません。だからこそ、「もっと苦しいのではないか」「何かあったらどうしよう」と、どうしても想像の中で不安が膨らんでしまいがちなのです。

どんな些細な変化であっても、重大な不安として受け止めてしまう――。 それは決してあなたが弱いからではなく、大切な家族を想う「ご家族として、ごく自然な心理」なのです。

今、このブログを読まれているあなたも、日々のケアや医療処置の管理、そして「何かあったら……」という張り詰めた緊張感の中で過ごされているのではないでしょうか。

家族だからこそ、 「もっとできることがあるはず」 「私がしっかりしなきゃ」 と、24時間365日、気を張って頑張ってしまっていませんか?

ですが、多くの医療・介護の現場を見てきて、これだけは確信を持って言えることがあります。

それは、「完璧を目指して頑張る人ほど、早く息切れしてしまう」ということです。

■介護は「短距離走」ではなく「長距離マラソン」

在宅療養の生活は、今日明日で終わる短距離走ではありません。いつまで続くか分からない、先の長いマラソンです。

スタートダッシュで全力疾走してしまったら、途中で倒れてしまうのは当然ですよね。在宅介護を長く、そしてお互いにとって穏やかな時間にするための最大の秘訣は、「適当にサボりながら、まず自分を満たすこと」です。

「サボる」と言うと罪悪感を覚えるかもしれませんが、これは決して手抜きではありません。プロのランナーが給水所で水分補給をするのと同じ、「継続するための必須スキル」なのです。

■なぜ「自分を満たすこと」が最優先なのか?

介護する側の心と体がすり減ってカラカラになると、どうしても余裕がなくなってしまいます。 些細なことにイライラしてしまったり、そんな自分を責めて落ち込んだり……。実は、介護の限界は「体力の限界」よりも、先に「心の限界」としてやってくることが多いのです。

■「介護の主役は、患者さんではなく『家族全員』です」

あなたが笑顔でいること、あなたが心穏やかでいること。それ自体が、療養されているご本人にとって、何よりの安心感に繋がります。つまり、あなた自身を満たすことは、巡り巡って最高の介護ケアになるのです。

■今日からできる「上手なサボり方」のヒント

具体的にどうやってサボればいいの?という方に、いくつかのヒントをご提案します。

• 「まあ、いっか」の合格ラインを下げる 掃除が毎日できなくても、死にやしません。食事も毎食手作りでなくていい、お惣菜やレトルト、宅配サービスをフル活用しましょう。100点満点ではなく、60点くらいで「今日も1日無事に終わったから大正解!」と自分に拍手を送ってください。

• 「プロの手」に丸投げする時間を作る ケアマネジャーさんに相談して、ショートステイやデイサービス、訪問介護などのサービスを「自分が休むため」に使いましょう。罪悪感を持つ必要は一切ありません。その時間は、介護のことは完全に忘れてください。

• 自分のための「小さなご褒美」を隠し持つ お気に入りのカフェのドリップバッグ、ちょっと贅沢なスイーツ、好きな音楽を聴く15分。ご本人が寝静まった後や、デイサービスに出かけている間に、自分の「好き」で心を潤す時間を意図的に作りましょう。

■最後に:頑張り屋さんのあなたへ

「自分がやらなきゃ」と1人で抱え込まないでください。

少し手を抜いたって、誰にも責められません。むしろ、上手にサボりながら、あなたの心と体の健康をいちばん大切にしてください。

在宅療養を続けていくために必要なのは、強靭な精神力ではなく、「適度に力を抜くしなやかさ」です。

今日はちょっとだけ肩の力を抜いて、温かいお茶でも飲んでホッとする時間を取ってみませんか?

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